東京大学

概要
調査番号 0568
調査名 中国機械工業における労務管理と労働者の職務意識に関する調査,1991・1995
寄託者 清川雪彦
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教育目的(授業など)の利用 教育(授業・卒論等)も可

利用期限

一年間
データ提供方法 ダウンロード
オンライン集計システムSSJDA Data Analysis 利用不可
調査の概要 1980年代以降多くのアジア諸国は,経済自由化政策への転換が急速に進展した。発展途上国の工業化は,大量の外資の流入により,資本や技術,経営資源の移転は進みつつあるが,その成否は労働力(含む直接監督者層)の質の向上如何にかかっている。
 本調査研究は,そうした近代的工業労働力形成の問題を,いわゆる合理的な「経済人」の枠組みを離れ,労務管理あるいは職務意識という労働者個人の態度やモラール(士気)を規定する心理的価値付け(価値意識)の側面から捉え明らかにしようと試みたものである。

 高いモティベーションを有するには,昇給や昇進といったインセンティヴだけでなく,生産現場や企業組織に対する心理的帰属感,あるいは工場形態による生産方法や職務管理および職場生活などへの肯定感,さらにはそこで支配している価値観や共通意識への共鳴など(それらは総称してコミットメントと呼ばれる)が,当然その前提として存在していなければならない。
 言い換えれば,途上国の工業労働力の質を問題にする場合,単に労働生産性や狭義の労務規律,あるいは学歴水準など外的に観察可能な側面だけでなく,労働者個人の価値観や意識,とりわけモティベーションに深く関連する職務意識や態度こそが,決定的に重要な意義を有する。

 こうした問題意識から,1985年から1998年の間に予備調査,パネル調査等を含め9回,インド,中国において工場労働者の職務意識に関わる現地調査を,現地研究者,現地企業等の協力を得て行い,比較分析している。標本数は累計1000名を超える。
 現地調査の過半は,文部省の科学研究費(複数)のほか,日経奨励財団や松下国際奨学財団,日大商学部特別研究費等々の助成を受けて実施された。

 各調査対象とも,基本的にはチームワークや労務規律,あるいは品質意識や広義の熟練などが問われる典型的工場生産システムを有する(と想定される)機械産業部門より若干の企業が選択されている。
 ただし季節労働者や非組織部門のムスリム労働者の意識や勤務態度など,かなり限定された問題を考察しようとする工場調査にあっては,当然それらの対象を最も典型的な形で含む産業部門(この場合は製糖業と製陶業)から企業ないし作業場が抽出されている。

 インドでの調査は,まったく個人的知己の現地研究者に斡旋役を依頼し,彼らを通じ製糖工場や電器機械工場あるいは製陶協会などの紹介を受けた。
 他方中国の調査の場合には,まず共同研究プロジェクトが組織され,その分析目的(企業レベルの総合調査)に応じ約150企業が系統抽出法により選出された後,その中から企業改革の進展度や所有形態などの特性を考慮し有意抽出されている。
 このように企業の選択は,調査の実施可能性に大きく制約されざるをえないが,最終的調査対象は労働者個人(およびその比較参照グループとしての管理者)であるから,上記のごとく抽出された企業を第1段(中国の場合は第2段)の集落とし,そこから労働者・管理者をそれぞれ相異なる副母集団より,乱数表に基づき一定数無作為に抽出し実施された。

 ここに収録の調査はそのうち,中国天津市の機械工場の従業員(労働者及び中間管理者)を対象とし,1991年実施された意識調査と,1995年同対象者に対して同調査票(ただし追加項目あり)で実施されたパネル調査である。その間1992年~93年頃から,各企業は本格的な生産性の改善に取り組み始めたがゆえ,その結果として,失業やレイオフの急増という新たな局面を迎えるに到った。こうした状況下における企業ならびに個人レベルでのレイオフや自主的転業の実態あるいは職務意識の変容を明らかにしている。
データタイプ(量的調査/質的調査/官庁統計) 量的調査
量的調査: ミクロデータ
調査対象 中国天津市の機械工業に属する企業の従業員(労働者及び中間管理者)
調査対象の単位 個人
サンプルサイズ [1991年調査] 265人
[1995年調査] 145人
調査時点 [1991年調査] 1991年11~12月
[1995年調査] 1995年12月
対象時期
調査地域 中国天津市
標本抽出
面接調査の対象者は,6つの企業より,総計265名(各企業35~50名)の管理者・労働者が各層毎に単純ランダム・サンプリング法により抽出。

 6企業の選定は,日大・一橋大共同研究全体による天津市の機械工業に関する企業レベルの工場調査(「総合調査」)において選定された150企業のなかから,(1)制度改革の進展状況と(2)所有形態の相違を配慮し,比較対照可能なように有意抽出されている。ただし合弁2企業の場合は,他の4企業に対する参照グループとして,企業間の差の性格を識別する際の参考指標として,やや異なった角度から選定されている。

 また職務意識は,管理者と労働者とでは大きく異なることが予想されるため,標本抽出に際しては,その一部が管理者層より抽出されている。各企業とも生産部門と管理部門のそれぞれの在職者名簿より,乱数表を用いて一定の割当数が抽出されている。
調査方法 他記式調査票に基づく面接法
 中国語の調査票は,まず日本語の調査票を十分試行・吟味のうえ作成し,そこからの翻訳により現地語へ移し替えた。
 面接調査は,天津市統計局の専門調査員7名の協力を得て,中国語で1人30~40分をかけて行われた。
調査実施者 清川雪彦
DOI
委託者(経費)
寄託時の関連報告書・関連論文 清川雪彦『アジアにおける近代的工業労働力の形成 ―経済発展と文化ならびに職務意識―(一橋大学経済研究叢書別冊)』,2003年2月,岩波書店
SSJDAデータ貸出による二次成果物 二次成果物一覧はこちら
調査票・コードブック・集計表など [調査票]
主要調査事項 (1)属性等
 職位,出生年,年齢,性別,就職年,勤続年数,職歴,最終学歴,給料(合計,基本給,諸手当等),現在の賃金水準への昇給額,未既婚,子どもの数,同居家族人数,働いている家族数,主たる所得稼得者,家族の総月収,住宅の種類,中国共産党員か,等。

(2)職務満足・競争・公平等
 昇給と昇進の選択,企業に期待する労働条件の実現,賃金水準の満足度,職場の人間関係の満足度,仕事の満足度,重視している生活,工場内での配置変え,転職機会への考え,退職後に家族が就職できる制度への評価,欠勤者の仕事の補充,仕事への競争の持込み,個人間の競争とグループ間の競争,出来高給の採用,出来高給と時間給,年功賃金と能力給,賃金に反映されているもの,工場の賃金体系への考え,工場の住宅政策への満足度,ボーナス水準の満足度,休日制度や労働時間の満足度,最も親しい友人,職場で問題がおきた時の相談相手,福利厚生施設の満足度。

(3)近代性意識や職務規律
 能力が等しい男女の平等性,怠惰な労働者の解雇,企業の株式会社化,鉄飯碗や大鍋飯への考え,賃金等の教育水準に応じた決定,企業内の人物評価の基準,職務規律に厳しい管理者,企業の非生産部門,家族に病人が出た場合,労働に応じた分配の意味,職業の評価,職場への誇り,現工場での定年までの就労意向,同じ仕事の子どもへの提供,よい仕事の意味,転職の際の選択基準,企業の競争,昇進には「関係」が必要,工場の規則,工場経営者に重要な資質。

(4)熟練・技術・品質意識
 熟練の形成に重要な要因,管理者として最も重要な能力,新設備導入・技術革新への対応,古い機械を廃棄しての新設備の導入,新設備導入後の希望,国家標準・機械工業部標準の認知と使用経験・入手方法,製品の品質差に応じた価格差,生産量増加か品質改善か,製品検査・品質検査,QCサークルの目的の認知,全面品質管理活動,上司からの直接の技術指導,上司と話したり食事したりする機会,生産性改善の提案の受け容れ,熟練や技能水準の引き上げに必要なこと,外国機械の導入の有効性,労働組合の生産性向上に対する取り組み,経営内容改善に重要なこと,品質改善に有効なこと。

(5)補充質問[1995年調査のみ]
 終身雇用への考え,昇進と勤続の長さの連結,技術を身につけるには,管理者と労働者が同じ食堂で食事をすること,工場の制服,朝礼の必要性,工場全体のレクリエーション活動,提案制度に則った従業員の改革の提案,福利厚生施設の充実。
公開年月日 2009/05/19
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雇用・労働
バージョン 登録:2009年5月19日 :
特記事項